「子どもは継がない。自分の代で畳むしかない」。60代の製造業の経営者から、この言葉をよく聞きます。ただ、最新の数字を見ると、製造業は継ぐ人が最も見つかっている業種で、継ぐのは子どもより第三者のほうが多くなっています。この記事では、統計を確かめ、実際に引き継いだ側の人が会社の何を見ていたかを聞き、廃業か承継かを決める前に整えておくことを書きます。
数字: 製造業の不在率は42.4%で最低。継ぐのは非同族が4割
帝国データバンクが全国約27万社を対象にした2025年の調査では、後継者不在率は50.1%で、前年から2.0ポイント下がり、7年連続で改善しています(2017年比で16.4ポイント低下)。業種別では、建設業57.3%、製造業42.4%、金融・保険31.4%で、製造業は主要業種の中で最も低い。小規模企業では57.3%、社長が50代の会社では58.3%です。
後継者候補の属性は、非同族41.0%が4年連続で1位、初めて40%を超えました。子ども29.7%、親族24.6%、配偶者4.7%。承継の方法は、内部昇格36.1%、同族承継32.3%、M&Aほか20.6%、外部からの招聘7.6%です(帝国データバンク「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」)。
つまり、承継の3分の2は子ども以外です。従業員が継ぐ、別の会社が引き継ぐ、外から経営者が来る。この3つの道は、どれも「継ぐ側が、外から会社を見て決める」道です。
引き継ぐ側は、会社の何を見ているか
M&Aの仲介会社が、町工場の買い手が見るものを整理しています。買い手の典型は同業の中堅企業、取引の川上・川下の会社、近年は異業種や個人。共通する動機は「時間を買う」こと。図面が読める職人を育てるには年単位の時間がかかり、大手の品質認定を新規に取り直すのも容易ではない。見るのは、設備の更新が必要か、職人の年齢構成と技能が特定の人に集中していないか、大手との直接取引・品質認定・リピート比率、技術の独自性、社長への依存度、製品別・顧客別の採算、図面・見積・工程データが整理されているか。売り手が事前に整えるものとして、実質利益の整理、製品別の採算資料、工場の整理整頓、環境法令の遵守、経営者保証の解除、が挙げられています(新宿コンサルティング「製造業(町工場)のM&A相場と技術承継」。仲介会社の記事です)。
実際に引き継いだ側の話を3つ挙げます。
岐阜の金属加工会社の2代目は、27歳で、79歳のオーナーが高齢で継げなかった亜鉛メッキの会社をM&Aで承継しました。承継先の従業員は「最悪、買い手が見つからなければ廃業と言われていた。社長と会って、この人ならついていけると思った」と話しています。承継後にやることとして挙げていたのは2つ。顧客からの仕事の単価が適正かを見直すこと。そして、リーダー格の人に仕事が集中していて、その人がいないと止まるので、マニュアル化・見える化して振り分けること。この経営者は父親の会社も立て直していて、取引先が1社しかなく残業が偏っていた会社を、顧客31社に増やし、5年で給与30%増・残業20%減・売上約4倍にしています(YouTube「若き事業承継家の挑戦」エコノミストTV)。
石川県加賀市の創業66年の町工場は、前社長が急逝して後継が見つからず、廃業寸前でした。引き継いだのは、県が運営する経営者募集のマッチングで来た、東京の航空エンジン開発の技術者。早期退職して社長になり、「私は燃えています」で始まる求人文で若手が集まって、2年で従業員が増え売上25%増。頭の中で仕事をしていたベテラン技能者の知識をホワイトボードで共有できる形にするのに1年半かかった、と話していました。こうした経営者のマッチングは全国で約5,000件あります(YouTube「町工場が再生!企業と経営者のマッチング」BSテレ東)。
人口3万人の地方都市の従業員4名の製造業は、社長の体調悪化で売上が2年で43%減り、営業利益はマイナス1,500万円でした。企業価値を算出して30社に打診し、4社が関心を示し、最終的に同じ市内の異分野の製造業に4,500万円で株式を譲渡。買い手の目的は技術の獲得と地域密着で、全従業員と面談して全員が継続しています(エクステンド「赤字1,500万円・後継者不在の製造業M&A成功事例」。仲介会社の事例です)。
3つとも、引き継ぐ側が見ていたのは、決算書だけではありません。技術が誰でも分かる形になっているか。取引先が1社に偏っていないか。従業員がついてくるか。そして、外から見て、この会社が何をしている会社か分かるか。
「良いものを作るが、見せ方の発想が欠けている」
上の27歳の承継家が、父の会社を継いだとき、他の製造業の経営者と話して感じたことをこう話していました。「良いものを作ろうという意識はすごくある。ただ、それをどう見せていくか、どう販売していくか、どう仕組み化していくか、そういう発想が欠けている方が多い」。
承継の場面で、この差がそのまま出ます。技術があるのに、図面と加工条件が職人の頭の中にしかなく、取引先は1社で、会社のホームページは10年前の会社案内のまま。買い手も、県のマッチングで来る経営者も、社内で継ぐかもしれない従業員も、その会社の価値を外から測れません。新潟の事業引継ぎ支援センターの責任者は、第三者承継は価格や雇用条件が折り合わず成約率は1割ほどで、廃業したくても従業員と取引先への責任で廃業できない経営者も多い、と話していました(自動車整備業の承継を追ったテレビ報道)。折り合わない理由の一つは、会社の中身が外から見えないことです。
承継の前に整えるもの: 会社を外から分かる形にする
廃業か承継かを決める前に、整えておくものは4つです。仲介会社の「事前に整えるもの」と、承継家の話を合わせたものです。
- 技術を見える化する。加工条件、段取り、検査の基準を、ベテランの頭の外に出す。加賀の町工場は1年半かかりました。早く始めるほど楽です
- 取引先を複数にする。1社依存は、承継でも経営でも最大のリスクです。岐阜の会社は1社から31社に増やしました。増やし方は「製造業の新規開拓」の記事に書きました
- 情報を整理する。製品別・顧客別の採算、図面と見積のデータ、設備の一覧と更新時期
- 会社を外から分かる形にする。何を、どんな設備で、どの業界向けに、どのくらいの精度で作っている会社か。誰が働いていて、どう教えているか
4つ目が、ホームページの役割です。設備、加工の内容、製作実績、取引先の業種、人。これが外から見える会社は、買い手にも、マッチングで来る経営者にも、内部昇格を打診される従業員にも、判断の材料を渡せます。承継のためだけではなく、いま新規の取引先を探す設計者にも、求職者にも、同じものが見られています(「製造業のBtoBサイト制作」の記事)。
まとめ
- 製造業の後継者不在率は42.4%で最低。継ぐ人はいる。候補の41%は非同族、承継の3分の2は子ども以外
- 引き継ぐ側が見るのは、技術の見える化、取引先の分散、情報の整理、従業員、そして外から見て何の会社か分かるか
- 27歳の承継家、県のマッチングで来た元技術者、4名の赤字会社の譲渡。どれも「外から会社が分かった」から成立した
- 「良いものを作るが、見せ方の発想が欠けている」を、承継の前に直す
- 整えるのは、技術の見える化、取引先の複数化、情報の整理、会社を外から分かる形に。最後の1つがホームページ
製造業の会社のためのホームページ制作サービス「製造WEB」では、設備・加工・実績・取引先の業種・人を、外から会社が分かる形にまとめます。承継や取引先の変化に合わせた更新も続けて担当します。廃業か承継かを決める前に、いまの会社が外からどう見えるかを確かめたい方は、ご相談ください。
